『Stellar Blade』X『NieR:Automata』特別対談! キム・ヒョンテとヨコオタロウの共通したゲーム哲学とは?

同じ匂いのするクリエイター

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください">詳しくはプライバシーポリシーを確認してください

2024年4月26日、PS5向けに発売予定の『Stellar Blade』。ディレクターを務めたキム・ヒョンテ氏は本作を開発する上で、スクウェア・エニックスによる『NieR:Automata』が大きなヒントになったと以前のインタビューで語っている。

滅亡した地球を舞台に、女性の戦士が剣を振るうアクションという意味では、ユーザーにとってもそのインスピレーションは見て取れるだろう。一方で、実際に手に取ってみると極めてオリジナリティの高い作品であることもプレビュー記事で詳しく紹介している通りだ。様々な作品からインスピレーションを受け、それを元に独自のアプローチで斬新かつ高水準のゲーム体験に落とし込んでいるのだ。

キム氏が代表である韓国・ソウルのゲーム開発スタジオSHIFT UPにて、『NieR:Automata』のディレクターを務めたヨコオタロウ氏との対談が実施された。クリエイターとしての共通点や相互リスペクトがふんだんに感じられるインタビューで、ときには真剣に、ときにはユーモラスなトークが展開されているので、ぜひ読んでほしい。

キム・ヒョンテ氏(左)とヨコオタロウ氏(右)

――本日はよろしくお願いします。キムさんが『NieR:Automata』をきっかけに自分の作りたいゲームを再発見したと、以前のインタビューで仰っていましたね。それがきっかけとなり、今回はヨコオタロウさんとの対談が実現しているわけですが、まずは『NieR:Automata』のどういった部分に感銘を受けたか、改めてお聞かせください。

キム氏(以下敬称略)「とても魅力的な要素が多いゲームですので、『NieR:Automata』の特定の部分を取り上げることが難しいほど全般的に影響を受けています。その中でも特に、強い女戦士が滅亡した地球を舞台に冒険を繰り広げるところが魅力的でした。クオリティの高いストーリーが特に印象的でした。全エンディングを見るほどやり込みました。ただそのセンスは私にはとても真似できないものなので、大枠以外は別のテイストになっていると思います。『NieR:Automata』を初めて見たときのインパクトがすごく強かったので、プレイの内容にも様々な面で影響を受けています。ヨコオさんに今日の対談に応じていただけたということは、私が影響を受けたことをご了承いただいている、と思ってもよろしいでしょうか?(笑)

『NieR:Automata』の主人公2B。

ヨコオ「というか、『Stellar Blade』はめちゃくちゃ素晴らしいゲームで、『NieR:Automata』よりも全然いいと思いますよ(笑)。キムさんのことは『マグナカルタ』で初めて知ったんですけど、当時からイラストのクオリティが高くて。『マグナカルタ』は僕が初めてディレクションした『ドラッグオンドラグーン』より前に出てるんですよね。なので、僕の方がだいぶ年上ではあるんですが、クリエイターとしてはキムさんの方が先輩だというイメージがあります」

『マグナカルタ』

キム「本当ですか? じゃあ、もうちょっと偉そうにしてもいいでしょうか?(笑)」

ヨコオ「それはもう、キムさんは日本でも偉大なクリエイターとして知られていますから! 『ブレイドアンドソウル』なんかも3Dのクオリティが高くて。キムさんがアートディレクションをされていたと思いますが、イラストだけじゃなくて3Dモデリングのコントロールもすごくうまくて、韓国のクリエイターのレベルの高さに驚いた覚えがあります」

『ブレイドアンドソウル』

キム「私はいつも自分が作りたいものばかり作っていますが、それについてきてくれるスタッフがいなければ絶対にできなかったと思います。……と、謙虚なふりをしてみます(笑)」

ヨコオ「(笑)」

――ヨコオさんもキムさんと似て、ご自身の描きたい世界観があって、それを強烈に表現していると思います。『ドラッグオンドラグーン』でディレクションを任されるまではどういった苦労があったのでしょうか。

『ドラッグオンドラグーン』

ヨコオ「ぶっちゃけた話をすると、途中までディレクターをやっていた人が別のプロジェクトで忙しくなって、代わりにやることになっただけなので、そのポジションまで行くのはそんなに苦労しなかったですね。当時、スクウェア・エニックスからは『真・三國無双』をファンタジーにしたゲームを作ってほしいというオーダーがあって、『そんなに簡単にできないよ』とは思ったんですが、お金をもらっているので「やります」と言って(笑)。でも、シナリオやアートディレクションについては具体的な指示が何もなかったので、そこは好き勝手にやった結果、独自性を放つことができたのかなと思っています。で、めちゃくちゃ暗いお話を書いたら、『こんな暗い話を書いてどうする?』と怒られて、喧嘩になったんですよ(笑)。あっ、そうそう。それでキムさんに聞きたかったんですけど、『Stellar Blade』はSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)がパブリッシャーじゃないですか。キムさんはSIEさんとなにか喧嘩になりましたか?」

キム「(笑)。SIEの皆さんは、本当に、本当にいい方ばかりです……(笑)」

ヨコオ「今、SIEの人たちが見たこともないような面白い顔をしてるんで、ぜひ見てみてほしいです(笑)」

――ちょっとお話を戻しますね(笑)。ヨコオさんは先ほど『Stellar Blade』について、「『NieR:Automata』よりも全然いい」とおっしゃっていましたよね。

『Stellar Blade』の主人公イヴ。

ヨコオ「はい」

――どういった部分でそう感じました?

ヨコオ「グラフィックスが完全に新しい世代のクオリティに達しているというのと、やっぱりキャラクターのディレクションが素晴らしいですね。キムさんのカッコいい男性と可愛い女性は振り切ったものが出てきていて、すごく魅力的だと思います。たとえば、僕はRPGのショップの画面で、お店の人がアップになるカットが実はあまり好きじゃないんですよ。なんか、不自然な感じがして。この演出は『Stellar Blade』にもあるんですけど、お店の女の子があまりにも可愛すぎて……(笑)。 可愛さがシステムを超える瞬間がきたなと思って、すごく衝撃を受けました」

キム「実は困っているんですよ。ショップの女の子が主人公よりも可愛いという声もあって……。なので、次の作品ではショップの女の子を主人公にしたゲームを作ろうと思います(笑)」

ヨコオ「いや、でも好みもありますからね。『Stellar Blade』のヒロインのイヴもすごく魅力的だと思いますよ。長い黒髪が印象的で。日本のオタクの男子は黒い髪の女の子が好きな傾向があるような気がするんですけど、長い黒髪の女性キャラクターは韓国のオタクにも人気なのでしょうか」

キム「韓国のオタクやサブカルチャー好きの趣味って、僕にとっては永遠の課題で、結局のところはよくわからないんですよ。日本とはまた少し好みが違うとは感じていますが、本当につかむことが難しくて。わからないので、結局はいつもただ自分の好きなものを作っている感じですね」

ヨコオ「少なくとも、キムさんのアートはすごく日本人受けすると思っています。『Stellar Blade』は特に日本人好みのグラフィックスや世界観やヒロインだと思いますね。なんなら、なんの知識もないところに『NieR:Automata』と『Stellar Blade』を置いたら、たぶんほとんどの人が『Stellar Blade』を選ぶ気がします(笑)。2Bのように白い髪の女の子は別にメジャーじゃないので」

キム「『そうでしょうねえ』なんて返したら、大事になっちゃいますね(笑)。でもまじめな話、 『NieR:Automata』は私にとって不可侵の聖域というか、見た目も物語も真似できないほど素晴らしいものだと思っています。今作はSHIFT UP初のコンソール向けタイトルなので『可愛いな〜。がんばってるな~』という目で見守っていただけたら助かります」

――キムさんにとって、2Bのどんなところが魅力的ですか。白くて短い髪に目隠しという珍しいキャラクターデザインですが、キャラクターとしてすごく愛されている理由はなんだと思いますか。

キム「白い髪、眼帯、黒い服に白いステッチ、本当にすべてが魅力的だと思います。当時のメジャーなものからズレているけれども、すごく魅力的ですね。で、今となっては彼女の性格も含めて新しい流行になっていて、本当にすごいと思います。キャラクターだけでブランド化できていますね」

――ヨコオさんにお聞きしたいのですが、わかりやすく魅力的とされる路線じゃないキャラクターデザインを採用した理由はありますか。

ヨコオ「わかりやすいキャラクターって、たとえばSFのバトルアクションなら男性が主人公でアメリカ海兵隊のような格好をして銃を撃つというものになると思います。でもすでに『HALO』とかがあるし、同じものを作る意味はあまりないし、そもそもそういう文化の本拠地がアメリカなので、本場の人が作るものには勝てないじゃないですか。違うものを商品にせざるを得ないというか、あまり敵がいない場所で商売をしたいというのはありました。そういう意味ではSFのバトルアクションで、女の子が主人公で黒服に目隠しという、まだあまりなかった設定を選びました。でも『Stellar Blade』が来たせいでこの路線も奪われてレッドオーシャンになりつつありますね(笑)」

キム「ヨコオさんのキャラクターに近いものは作れるはずもないので、そういうものは作っていませんよ(笑)」

コオ「こんなお世辞を日本では聞けないので、韓国はいい国ですね(笑)。でも『Stellar Blade』と『NieR:Automata』が似ている印象に捉えられるだろうなというのは、実は以前から思っていましたし、最初に会ったときにキムさんにもお伝えしました。実際に遊んでみると全然違うゲームですけど、華奢できれいな女の子が強いバトルアクションをしているだけで似てると思われてしまうんだろうな、と。主人公がマッチョな男性だったらその時点で似ていると思われないんでしょうね。たまたまこういうゲームが開拓されてこなかったから、それだけで近い印象を与えてしまうんだと思います」

キム「私もまったく同感です。ポストアポカリプスもので、女戦士が活躍するゲームはあまり出ていないですから。私が影響を受けたのはその部分でしたし、他にそういったゲームがあまり出ていなかったので、似ていると言われるのはすごくわかります。私はこのゲームでいろんなものから影響を受けていますが、主に80・90年代に楽しんでいた漫画、アニメ、ゲームが多いですね。なので、同じ時期にそのような文化を楽しんでいた方にはちょっとレトロな感覚を想起させるものになっているかと思います。最近のトレンドを真似しようと思っても私はうまく作れないんですよ。自分自身が楽しんで、その良さを知り尽くしているものを作った方がいいと思いますし、そういったものを現代的に再解釈して作ったのが『Stellar Blade』になります」

――キムさんは以前のインタビューで『銃夢』や『ブレードランナー』などから影響を受けたとおっしゃっていましたが、ヨコオさんはどういった作品から影響を受けてきたのでしょうか?

ヨコオ「僕は『新世紀エヴァンゲリオン』に一番影響を受けています。『NieR:Automata』のストーリーを先ほど誉めていただきましたが、あれもほぼほぼ『エヴァンゲリオン』なので、オリジナリティはあまりないですね。僕は新しい映画などをあまり見ないので、昔見たものの記憶でいろんなものを作っている感じですね」

キム「私も実は『エヴァンゲリオン』から影響を受けています。でも特定の作品から影響を受けて、それ以上の作品を作ることは非常に難しいと思います。そういう意味で、ヨコオさんの作品ならではの色がしっかりあって、それは本当にうらやましいです。私はストーリーテラーではなく、自分のことをビジュアリストだと思っています。ずっとビジュアルを作る仕事をしてきたので、ストーリー作りについてはヨコオさんにはとても及ばず、ゲーム性で補おうとしています」

――『HALO』と同じようなゲームを作っても仕方ないので、敵がいないところで商売したいというブルーオーシャン戦略のような話がありましたが、ヨコオさんは作家性が強いと同時にビジネス的な目線もできる方だと感心しました。キムさんもビジネス的な目線で作品を見ることがあるのでしょうか。

キム「私はビジネスと開発のバランスを大事にしていて、バランスを取ることを心がけています。しかし、『Stellar Blade』の場合はほとんどビジネス的な目線を入れずに、純粋に好きなものを作りました。私はビジネスマンとして感覚が優れている方ではないので、市場の分析や数字を意識するよりは、単純に自分が好きなもの、ユーザーが好きになってくれそうなものを作っていることが多いですね。『私はこれが好きなんだけど、みなさんも好きになってくれたらいいなー』という気持ちでいつも作っています」

ヨコオ「アーティストでビジネスを考えずにやっているキムさんが300人の会社を持っていて、ビジネスを考えている俺が会社を持てていないところに世の中の不条理を感じますね(笑)。あれですね……僕は長い間スクウェア・エニックスの奴隷、いや『NieR』のプロデューサーであるところの齊藤陽介氏の奴隷として生きてきたので、すべて齊藤さんが悪いんです(笑)」

キム「ちょっと危険な発言なのでは……(笑) でも、実は私もいろんな人にサポートをしてもらっていて、いつも助けていただいています。事業的な判断、ビジネス的な判断については私の代わりにサポートしてくれる仲間たちがいて、ほとんどすべて任せているような状態です。実質的には全部その人たちがやっていて、私の役割はいろんなところで挨拶をして回ったり、プロフェッショナルなふりをしたりすることです。それさえしていれば、勝手にビジネスがうまく進んでいきます、なんてね(笑)」

ヨコオ「俺にはそういう友達もいないので、人間性でも負けている気がしてきました(笑)」

――ヨコオさんはどのようにビジネスとクリエイティブのバランスをとっているのでしょうか。

ヨコオ「僕は開発の時期によって違いますね。序盤はビジネスを考えていて、終盤はほとんど考えていないですね。なので、最初はクライアントの言うことを聞くんですけど、終盤は全然聞かないですね(笑)。聞く余地がないというか」

キム「素晴らしい戦略ですね、私も見習いたいです(笑)」

――ちょっと危険な対談になりつつありますね……。また話を戻します(笑)。キムさんはストーリーや世界観に関してはヨコオさんみたいにはできないので、代わりにゲーム性にこだわっているとおっしゃっていましたが、ヨコオさんは『Stellar Blade』のアクションについてどう思いました?

ヨコオ「すごく面白いゲームで、最初に遊んだときはステージ1のボスをクリアできなかったんですよ。奥深いアクション性があって、それを突破する面白さがあると感じました。『NieR:Automata』はアクションをものすごく簡単にしているのですが、それには理由があって。スクウェア・エニックスのファンはRPGユーザーが多いということもあって、アクションはあまり得意じゃなくて、シナリオを楽しみたいというお客さんが多かったんですよ。それもあって、簡単に快楽が得られるゲームデザインにしていました。『Stellar Blade』は逆に歯ごたえのあるゲームになっているので、そこが『NieR:Automata』と違うし、見ていて楽しいと思うところですね」

キム「ストーリーモードもありますけどね! いろんなサポート機能もついているので、そこまで難しいゲームにはなっていないはずです。実は私はアクションゲームが得意ではないので、自分がクリアできないようなゲームにはしたくありませんでした。難しそうだと思わずに、気軽に手に取っていただきたいですね。ゲームを開発しているときも、自分がやってみて『難しすぎて先へ進めないじゃないか』と文句を言ったら、企画の人が簡単にクリアして、『こんなに簡単に倒せるんですよ? これ以上簡単になったらむしろ困ります』なんて言われたりしたのですが、それでも自分の目線で難しいゲームになりすぎないように気を付けています。みなさんが楽しくプレイしてストーリーを最後まで見届けられるバランスにしています。『Stellar Blade』はバトル以外にも楽しめる要素が多いゲームになっていますし、RPGユーザーの方にも楽しめるゲームになっていると思います」

ヨコオ「製品版が出たらストーリーモードで、サポート機能をたくさんつけて遊びます」

――スクウェア・エニックスのファンはアクションが得意じゃない人も多いという理由があったり、キムさんは誰でもクリアできるようにしたいという気持ちがあったりして、誰でもクリアできるゲームを目指しているのですね。一方で、ここ10年はソウルライクというジャンルが流行って、「ゲームは難しくてもいい」という前提ができてきたと感じています。さらに、スクウェア・エニックスのRPGでもアクションが当たり前になりつつあって、『ファイナルファンタジーXVI』も完全なアクションゲームでしたね。このような流れの中で、おふたりはゲームの難易度についてどのようなアプローチをしていくべきだと考えますか。

キム「『この難易度が一番適切だ』という正解はないと思っています。ソウルライクのような高難易度のゲームがたくさん出ていることは事実ですし、私もそういったゲームの影響は受けています。ただ、ソウルライクのゲームは難易度の選択肢がないなかで、非常に絶妙なバランスが必要になってきます。『Stellar Blade』は歯ごたえのあるアクションを楽しみたい人のためにも、ストーリーをメインに遊びたい人のためにも楽しいゲームになれたらいいなと思っていろいろ工夫しました」

ヨコオ「キムさんのおっしゃる通りだと思います。ソウルライクについて、ビジネスの側面からお話をすると、『難しいこと』が商品になるという発明をフロム・ソフトウェアがしたと思っています。それまではずっと『簡単になろう、ストレスを軽減していこう』という流れがあったんですけど、むしろストレスを商品にしようという発明ですね。ただ、それは宮崎(英高)さんの発明なので、それを追っかけてもしょうがないと思っています。それとはまた違う、新たな発明を考えた方がいいじゃないですか。わからないけど、ものすごく高いゲームとか、匂いのするゲームとか、今までなかったなにかを考えたいですね」

――匂い……?

キム「本当にそうだと思います。SHIFT UPではコンシューマーゲームとモバイルゲームを両方手掛けていて、どちらも非常に難しいマーケットになってきていると思います。開発費の高さや継続的なアップデートの大変さとか、いろんなハードルがあります。できればレッドオーシャンじゃなくて、新しいフレームを見出して今までになかったゲームを作りたいんですけど、なかなかアイディアが閃いてきません。今後もヨコオさんとこういうことについて深く話し合えたらと思います」

ヨコオ「今深かったですか? 匂いが……?(笑)」

キム「ええ。ものすごく匂いのするゲームが出せたら大ブレイクすると思います。一緒に手を組みませんか?」

ヨコオ「それはもう、ぜひですね。15人くらいイケメンが出てきて、その男の子たちがひとりずつ香水が違って、匂いのするディスクが15種類あったら、すごい不思議な盛り上がり方をすると思うので(笑)」

キム「でも、匂いのダウンロード版はどうするんですか?」

ヨコオ「そういうデバイスを作ってもらうしかないですね、SIEさんに」

キム「次世代機に匂い機能を搭載ですね」

――余談ですが、『Leisure Suit Larry: Love for Sail!』というアドベンチャーゲームはパッケージにいろんな匂いのついた紙が付属し、場面に合わせて「今この匂いを嗅いでください」という指示が出ていました。

キム「私たち、まだまだですね(笑)」

ヨコオ「遅れてる(笑)。って、そろそろ話を戻さないと変な対談になってしまいますよ?」

――そうでしたね(笑)。アクションの話をしていましたっけ? ヨコオさんは『NieR:Automata』であえてカジュアルなアクションを採用したとおっしゃっていましたが、そうはいってもあのプラチナゲームズと手を組んで、すごく手触りのいいアクションだったと思います。キムさんに、『NieR:Automata』のアクションについての感想をお聞きしたいです。

キム「『NieR:Automata』のアクションはプラチナゲームズの戦闘ロジックをライトにアレンジしたものだと思っています。誰でも気軽に手に取ることのできる、プラチナゲームズの入門編タイトルみたいな印象がありますね。そこからゲームのアクションに魅了されて、どんどん彼らの虜になっていったユーザーも多いと思います。って、まるでプラチナゲームズの広告のような感想ですけど(笑)。『ベヨネッタ2』は自分のなかでベストゲームのひとつなので、みなさんにぜひプラチナゲームズの作品をたくさんプレイしてほしいです」

――『ベヨネッタ』で言うと、華奢ではないんですけど、これも女性主人公によるアクションですね。それもプラチナゲームズにお願いするひとつのきっかけだったのでしょうか。

ヨコオ「いや、それはなかったですね。『ベヨネッタ』は女性によるアクションの中でも違うものとして捉えていて。ベヨネッタというキャラクターは僕のなかで、やっぱり眼鏡が大事だと思っていて。永久に眼鏡を外さないというところがベヨネッタの魅力のひとつで、違うところにフォーカスをしているというか、キャラクター性が全然違うと考えています」

キム「『NieR:Automata』はもう完全にヨコオさんの色と吉田明彦さんのデザインが生きている独自のアイデンティティがあると思います。対談が進めば進むほど『Stellar Blade』の立ち位置がない気がしてきました(笑)」

ヨコオ「そうですか……? 僕は『Stellar Blade』を見てすごくうらやましいんですけどね。グラフィックスの素晴らしさとゲームの全体的なコンセプトがすごく良くて。キムさんが自分の会社を作られて、気の合う仲間と一緒に作っていることが伝わる製品なんですよね。僕は外部の人間として開発会社さんとやりとりをしているので、そこまで密なディテールの意思疎通が難しくて。そう考えると『Stellar Blade』はうらやましいなと素直に思います」

キム「直接、顔を合わせて同じ空間でゲームを作ることがとても重要だと考えています。『NieR:Automata』を作るときはヨコオさんもプラチナゲームズのオフィスに出向いて、そこで一緒に作られたと聞いていますけど、そのように直接同じ場所にいて、話し合って、考えを共有して、問題を見つけたら一緒に解決していくということをやって初めてゲームが完成していくと思います。ユーザーからしたら、コンソールゲームは毎年たくさんリリースされているのかもしれませんが、実はがんばって開発しても完成までたどり着けずに頓挫してしまうものがたくさんあるので、私は自分のゲームが完成を迎えたというだけで奇跡だと思っています」

ヨコオ「いや本当に。ゲームをリリースすることはお客様が思うよりだいぶ大変なので、リリースされているだけですごいなと素直に思います。そういえば、もうひとつ『Stellar Blade』で感心したところがあります。途中で謎めいたおじいさんが出てくるんですけど、そのキャラクターモデルがめちゃくちゃよくできているんですよね。イラストもそうですけど、美少女美青年はみんな描けるんですけど、おじいさんをうまく描くのって結構スキルが必要なんですよね。3Dモデリングも同じで、それができているのが本当によくできているゲームだと思います」

キム「アジアで開発されたゲームはリアルを重視するよりもトゥーンレンダリングのゲームや漫画仕立てのゲームなど、デフォルメされたビジュアルが多いと思います。『Stellar Blade』でもそういう表現を重視すると同時に、次世代エンジンに適応することで高いクオリティのビジュアルを実現するノウハウを習得するために力を入れました。技術開発も意識しながら作ったということもあるので、最前線で競っているゲームのひとつとして『Stellar Blade』を発売できるようになったのではないかと思います。しかし、技術開発やリアルなアセットの運用には膨大な開発費用がかかってしまいます。クオリティを一定の水準からほんの少しあげるだけでとてつもない金額を注ぎ込まなければならないので、その問題をどうクリアするかというのがゲーム業界における大きな課題になっていると思います」

――キムさんとヨコオさんがデビューした頃はまだ「ゲームといえば日本」の時代でした。そこから20年くらい経って、最近は日本のゲームが復活はしていますけど、いろいろ逆転された部分もあり、特にグラフィックスについては『Stellar Blade』のようなクオリティを日本ではもうなかなか真似のできないところまで来ていると思います。昨今の日本と韓国のゲームの力関係というか、韓国で表現できるものと日本で表現できるものの差についてはどのように感じていますか。

ヨコオ「ゲームもそうですけど、アニメや漫画も日本が早めにブレイクして、ブームを作っています。それが欧米やアジアに輸出されて、各国で別の形で花開いていきました。ゲームにおいて日本が苦手としているのは欧米のシステムを組み入れることだと思います。例えば、日本は自社エンジンでゲームを作る文化がすごく長く続いていました。欧米のレンダリングのエンジンやミドルウェアを導入するのがものすごく遅れたんですよね。未だに学校でもそれがちゃんと教えられていない状況で、要するに順応性がものすごく低く、日本人は外部からのノウハウを取り入れるのが苦手だと感じています。それに比べると韓国や中国は日本のテイストを元に、Unrealといったエンジンをいち早く活用していました。絵の描き方のシステムなんかも、欧米の塗り方を日本のデザインに取り入れるのがすごく上手で、日本にはできない発達だと思って見ています」

キム「ヨコオさんのおっしゃるような問題もあるとは思いますが、日本のゲームは2024年に入って大活躍しているじゃないですか。日本のコンテンツ全体が完全に復活していると言ってもいいほど、素晴らしい作品がたくさん出ています。優秀なゲームや今後リリース予定の期待作がたくさんあるので、とてもいい状況だと思います。一方で、中国も勢いがすごくて、特にモバイルゲームにおいてはヒットが次々と出ています。モバイルでは、中国が一番ヒットを出していると言えるくらい勢いがすごいと思います。韓国の開発者たちはトレンドに敏感なので、なにかが流行り出すとみんなそっちに向かってしまう傾向があります。最近は、モバイルMMOゲームへの偏りがさらに強まっている印象もありますね。SHIFT UPでもモバイルゲームを手掛けてきましたが、もう少し多様なプラットフォームに進出する必要があるのではないかと思っています。そういう意味で『Stellar Blade』をPS5専用タイトルとして出せることが、ひとつのきっかけになったらいいなと思っています」

――10年くらい前までのコンシューマーゲームは、欧米のゲームと日本のゲームがある感じだったと思いますけど、今となっては同じアジアでも日本、中国、韓国、あるいは台湾のゲームが当たり前のように出て、ヒットしていますね。同じアジア圏のゲームでも、ファッションや美学の違いはどのようなところに表れていると思いますか。

キム「国による違いをそこまで把握しているかは分かりませんが、意外と中国のゲームがいわゆるオタクやサブカル好きを一番理解しているような気がしています。日本以上にこういった要素を上手く取り入れたような素晴らしいゲームも出ていて、どうやってそれができるんだろうと不思議に思うことがあります。私自身はその路線をそのまま踏襲するには力が及ばないため、自分の色をプラスして、広く愛されるゲームを作りたいと思います」

ヨコオ「『NieR:Automata』でも特にオタクっぽいゲームを目指していませんでしたね。欧米のマッチョなゲームからちょっと距離を置こうというところからスタートしていますから。結果として女性主人公が刀を振るゲームになってオタクっぽいといえばそうなんですけど、世界観はそういう方向にあまり偏っているわけではないと思います。『NieR:Automata』は未来の廃墟が出てくるんですけど、現代の廃墟ではなく未来のものにしたのは、その方がうそをつけるからです。同じビルを並べても未来だと平気なんですけど、現代の建築物ならユーザーの目が慣れているからすぐにバレちゃうんですよ。コスト的な理由、それから欧米のゲームとの差別化を図った結果として、日本のオタクっぽいゲームという見方をされる気がします」

――『Stellar Blade』を見て、「日本人にこの発想はないな」と思う部分はありますか?

ヨコオ「発想はできるんですけど、ここまで作り上げられないんですよ。技術的なところが一番大きいですね。『Stellar Blade』は技術的な水準が本当に高いので、欧米のユーザーがどう受け止めるかが楽しみです。『NieR:Automata』はカメラの距離も遠いゲームで欧米のゲームには及んでおらず、あくまで日本のゲームだったと思うのですが、『Stellar Blade』はひとつ大きな壁を超えてるんじゃないかと感じています。キャラクターはもちろん、背景のクオリティも欧米に負けていないので、欧米のユーザーにとって新たな衝撃になるんじゃないかと思います。『NieR:Automata』に影響を受けて『Stellar Blade』を作ったのはすごく光栄な話ですけど、今度は『Stellar Blade』に影響を受けて、欧米のクリエイターが何を作るかというところも見たいですね」

キム「とてもうれしいお言葉ありがとうございます。でも、日本のゲームのクオリティは、今もなおトップクラスで、差別点もはっきりしていると思います。私は逆に『NieR:Automata』が欧米のゲームと違うからこそ、その影響力が欧米にまで及んだと思っています」

――キムさんもヨコオさんも世界的な影響力を持つクリエイターですが、最後に、おふたりがゲームクリエイターになりたいと思った最初のきっかけについてお聞きしたいと思います。

ヨコオ「僕がゲームクリエイターになろうと思ったのは『グラディウス』を見たときが最初ですね。『スペースインベーダー』にしても『ゼビウス』にしても『ディグダグ』にしても、それまでのゲームは同じステージを繰り返すものでした。ステージをクリアして、また同じ画面で次のチャレンジが始まるじゃないですか。『グラディウス』はステージが変わるごとに風景も変わっていって、最後にエンディングがあるので、それが衝撃的でした。『ビデオゲームでストーリーを表現できるんだ』という驚きがありましたね。コンピューターの技術は進歩するに決まっているから、将来はテレビも映画もすべてインタラクティブなものに置き換わると思っていました。これからはゲームの時代だ、と。テレビも映画も死ぬと思って、ゲーム業界に来たんですけど、結論から言うと映画もテレビも死ななかったです(笑)。俺の予想が間違ってました。でもゲームを作るきっかけになったので、自分が作るゲームも、誰かに『ゲームがひとつの壁を超えた』と思ってもらえる作品にしたいと今も思っています」

キム「ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、私はMSX時代のゲームで、少女たちの戦いを描いた『サイコ・ワールド』と『夢幻戦士ヴァリス 』というゲームに感銘を受けました。こんなに魅力的な女の子が戦うゲームがあるのかと思い、ショックを受けて、自分でもそのようなゲームを作りたいと思うようになりました。ゲームを作りたいと思わせてくれた最初のゲームですね。もちろん『NieR:Automata』は、『Stellar Blade』を作るにあたり、重要なインスピレーションを与えてくれましたが、他にもカプコンの『P.N.03』というゲームが印象的で、イヴのアクションスタイルに関しては、この作品の女性主人公のモーションから影響を受けています。私はこのようにいろんな作品に影響を受けてきているわけですが、『Stellar Blade』も私にとって『NieR:Automata』がそうであったように、他のクリエイターに影響を与える日がくればいいなと思っています」

――締めにふさわしい言葉をいただきました!

キム「さらに付け加えると、今までサポートしていただいた開発チームのメンバーと、SIEの皆さん、特にXDEVのチームの皆さんにこの場を借りて感謝の言葉を伝えたいと思います。ヨコオさんも今回の対談のために韓国までお越しいただき、心より感謝いたします」

ヨコオ「ありがとうございました。……きれいに終わった!」

――ありがとうございました。

『Stellar Blade』は4月26日、PS5向けに発売予定だ。

※購入先へのリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、そちらの購入先での販売や会員の成約などからの収益化を行う場合はあります。 詳しくはプライバシーポリシーを確認してください">詳しくはプライバシーポリシーを確認してください
In This Article

Stellar Blade

Shift Up Corp. | 2024年4月26日
  • Platform / Topic
  • PS5
More Like This
コメント