「とにかく夜眠れない」トコジラミの被害報告相次ぐ なぜ今?

「とにかく夜眠れない」トコジラミの被害報告相次ぐ なぜ今?
「とにかく、かゆくて!」

夜、寝ていたら体がむずむずして。
電気をつけると布団には虫が…。
屋内で繁殖したトコジラミによる被害です。

専門家は「これから暑くなるうえ、さらにコロナ禍前の人出が戻ることで、改めて広がっていくのでは」と警戒を呼びかけています。

いったい何が起きているのでしょうか?

(おはよう日本 ディレクター 山本諒・ネットワーク報道部 記者 玉木香代子・芋野達郎)

自宅で繁殖してしまい 何か所も刺された!

「深夜に首や手足を刺され、かゆみで起こされる。今では電気をつけたまま寝ている。とにかく甘く見過ぎていたと思います」

東京都内に住む60代のタクシー運転手の男性。国内外の旅行客やビジネス客に対応してきました。

ある日、ふとんの中で足や首すじに刺されたような違和感を抱いたといいます。その後、両腕やすねに何かに刺されたような無数の赤い斑点ができ、「蚊に20か所以上、一気に刺されたようなひどいかゆみ」に襲われました。

当初はダニだと思ったそうですが、インターネットで調べてみると、トコジラミではないかと気付きました。

暗くなると活発になるのか、深夜に首や手足を刺され何度も起こされました。刺される恐怖から、今では電気をつけたままで寝ているということです。

粘着テープで何匹も退治しましたが、最近は部屋で多くのトコジラミを目にするようになり、手に負えなくなりました。
保健所などに相談し、業者を紹介され駆除に乗り出しました。
男性
「生き地獄というか。普通の生活をさせてほしい。ただそれだけ。自宅で繁殖してしまった場合、素人では退治できないと思う。ちゅうちょしないで業者に相談すればよかった」

トコジラミって?

そのトコジラミ(ナンキンムシ)。

シラミではなくカメムシの仲間で、体長は5ミリから8ミリほどです。
基本的に屋内に生息し、人や物に付着したり、産卵したりして、生息エリアを拡大していきます。

夜行性で日中は寝具や家具、カーテンレールの隙間などに潜んでいます。そして夜になると、暗くなった部屋で就寝中の人の血を吸うのです。

どれだけ部屋を清潔にしていたとしても入ってきて、生息していることにすら気付かないケースもあるということです。刺されると患部が赤く腫れ、かゆくなるということです。

また、気温が25度以上になると繁殖が活発になる習性があります。

これから爆発的に広がる?

これから夏にかけて爆発的に広がっていく

長年にわたってトコジラミなどの吸血性昆虫を研究してきた兵庫医科大学皮膚科学 夏秋優教授。この分野の研究の第一人者が警鐘を鳴らしています。
日本には、江戸時代から生息していたとされ、戦後、殺虫剤の普及や生活環境の改善によって、一時は絶滅寸前と言われるまで駆除が進みました。

ところが、10年ほど前から殺虫成分に耐性を持った“スーパーナンキンムシ”が現れ、当時は被害が拡大しました。

さらに、今、再び被害が広がり始めた背景に、夏秋教授は「人の往来の活発化」があると指摘しています。
夏秋教授
「新型コロナの影響で、海外からの観光客や国内の旅行者が減るにつれて、トコジラミの拡大も例年に比べて落ち着いていました」
「しかし、去年の秋ごろから再び大勢の人が行き来することにより、例えば荷物に紛れ込んだトコジラミが各家庭に運ばれ、そして別の場所へと移りました。今後は、さらに広がっていくと思います」
都内の害虫駆除の専門業者などで作る団体に寄せられた被害の相談件数です。トコジラミが、再び拡大し始めていることをうかがい知ることができます。
2019年まで増加を続け、コロナ禍で減少していましたが、去年は再び増加に転じました。

相談の件数は合わせて246件。コロナの水際対策が強化される以前の水準に戻っています。

刺された場合はどうすれば?

では実際に刺された場合、どのように処置すればよいのか。
まず夏秋教授は意外な点を指摘しました。

実はこの虫、刺された痕だけで、ノミやダニなどと見分けるのが非常に難しいというのです。

見分ける際のポイントは?
夏秋教授
「刺された場所です。トコジラミは衣服などで隠れていない露出されている肌から血を吸います。ダニは衣服の下にも潜って人を刺します。ノミも同じように手や足を刺しますが、猫などが媒介するため地面近くに生息していて、刺されるところが足に集中する傾向があります。トコジラミは寝ている時に露出している肌で血を吸うのです」
「腫れは基本的に1~2週間で引いていきます。蚊のように感染症を媒介しないとされていることから、市販のかゆみ止めを塗って様子を見て、症状がひどくなったり、大量に刺された場合はかゆみで不眠になったりするので皮膚科の受診を勧めています」

家に持ち込まないための対策は?

そもそもトコジラミに刺されないようにするためには、どうすればよいのか。
害虫駆除の専門業者らでつくる「日本ペストコントロール協会」の小松謙之さんは、外出先から家に持ち込まないことが何よりも大切だと話します。

たとえば宿泊施設などを利用する際、トコジラミがいる可能性を考えて、部屋の四つ角や天井などを見てトコジラミの黒いふんのような物がついていないかを確認する。

さらに、荷物は入り口付近にまとめて置き、できれば大きな袋などに入れてトコジラミが付着しないようにするなど、しっかりと対策を取ることが有効だとしています。
その上で万が一、家に持ち込んでしまった場合、プロポクスルやメトキサジアゾンなどの有効な成分が入った殺虫剤を入手し、部屋の四つ角や天井、家具の裏側など、トコジラミが生息していたり、通ったりする可能性が高い場所にまいて駆除する必要があります。
小松さん
「トコジラミは放っておくと、すぐに増殖しますので、気付いたらすぐに対応することが大切。個人での対応が難しい場合には、信頼できる業者に任せることをお勧めします」

宿泊業者も駆除を模索

被害をなくしたいのは、観光客が訪れる宿泊施設なども同じ。ホテルの衛生管理の担当者が実情を明かしてくれました。

どんなに清潔に保った部屋であっても、トコジラミに入り込まれると、ベッドの隙間などに潜り込まれて初期の段階で見つけることは難しいということです。

このホテルでは、客から虫らしきものを見つけたという声があった段階でトコジラミがいるか調べ、確認できた部屋では、ベッドやカーテンなどを廃棄処分。最低でも3週間にわたって客を入れず虫を駆除します。

さらに隣接する部屋だけでなく、向かいの部屋なども徹底して調査するということです。

しかし、こうした対策を取っても再びトコジラミが持ち込まれるリスクを100%取り除くことがどうしてもできないのが実情です。

担当者は「痛しかゆしですが、とにかく、お客様が被害に遭わないように対策を取り続けていくしかない」と苦しい胸の内を話しました。

探知犬で早期発見を

トコジラミは、なかなか発見できないケースもあることから、嗅覚の鋭い犬も調査に取り入れられています。

その名も『トコジラミ探知犬』。
都内の駆除業者によりますとトコジラミは、人間が嗅ぎわけることができないかすかな匂いがするそうで、探知犬がその匂いに反応して知らせます。

これまでに2万2000以上の客室を調査し、発見につながったケースもあったといいます。

速やかな対応を

今後、私たちはどうすべきなのか。

夏秋教授は冷静な対応を呼びかけています。
夏秋教授
「必要以上に恐れないでほしい。トコジラミは、蚊のように感染症の媒介をしないと言われている。室内で多くを繁殖させなければ対処できます。冷静に早期に素早く対応すれば怖い虫ではないんです」
冒頭のトコジラミの被害に遭っている60代の男性は、最初、軽い気持ちで様子を見ているうちに一気に繁殖し、手が付けられない状況になりました。

素早い対応を取るためにも、わからないことがあれば、専門の団体などに相談することが必要です。
(公社)日本ペストコントロール協会
電話:03-5207-6321
おはよう日本ディレクター 
山本諒
2017年入局
福岡放送局を経て現職
ネットワーク報道部 記者
玉木香代子
2008年入局
首都圏局などを経て現職
ネットワーク報道部 記者
芋野達郎
2015年入局
釧路放送局、旭川放送局を経て現職